大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和32年(ウ)1040号 決定

申立人 国

訴訟代理人 家弓吉巳

主文

当裁判所が当庁昭和三一年(ウ)第一〇〇五号緊急命令申立事件について、昭和三十二年一月十七日大阪府知事赤間文三に対してなした緊急命令は、これを取り消す。

理由

一、本件記録並びに当庁昭塾三一年(ネ)第二三八五号不当労働行為救済命令取消請求控訴事件記録によれば、次の事実を認めることができる。

(イ)  山本一郎は申立人に雇われていたいわゆる駐留軍労務者であつて、昭和二十六年二月二日以降大阪市天王寺区筆ヶ崎所在の在日米軍大阪日赤総合病院に配管工として勤務していたものであるが、昭和二十八年九月一日解雇された。全駐留軍労働組合大阪地区本部は、右解雇が不当労働行為であるとして大阪府地方労働委員会に救済の申立をしたところ、同委員会は昭和二十九年一月三十日附で、国の機関としての大阪府知事赤間文三に対し、「一、使用者は山本一郎を原職に復帰せしめること。二、使用者は山本一郎の解雇当日より復帰の日までの間、同人が原職にあれば受くべかりし賃金相当額を支払うこと。三、前二項は本命令交付の日より十日以内に行うこと。」との救済命令を発した。大阪府知事はこれに対して中央労働委員会に再審査の申立をしたが、昭和二十九月十五日附で右再審査申立は棄却された。

(ロ)  中央労働委員会は昭和三十一年十二月二十四日大阪府知事を相手方として当裁判所に前記労働委員会の命令に従うべき旨のいわゆる緊急命令の申立をし、当裁判所は当庁昭和三一(ウ)年第一〇〇五号事件として、昭和三十二年一月十七日「相手方は昭和三十二年一月以降当庁昭和三一年(ネ)第二三八五号不当労働行為救済命令取消請求控訴事件の判決確定に至るまで、大阪市住吉区緑木町三丁目四番地山本一郎に対し同人が受くべかりし給与相当額をその所定の給与支払日に支払わなければならない。」旨の緊急命令を発した。

(ハ)  しかるに、山本一郎の解雇当時の勤務先である在日米軍大阪日赤総合病院は昭和二十九年八月末日を以て閉鎖せられ、昭和三十年二月十五日駐留軍から日本赤十字病院に返還されることになつた。これに伴い駐留軍においては、数次に亘つて、右施設において使用してきた労務者の人員整理を行い、山本一郎と同じ職種にあつた労務者の大部分は解雇せられ、またその一部のものは職種を変更して他の部隊の労務者として転勤を余儀なくせられた。そして他の部隊に転勤となつた右労務者も施設閉鎖のため漸次解雇せられ、結局昭和三十二年八月十四日までには山本一郎と同じ職種にあつて、同施設に勤務していた駐留軍労務者は一名も在籍しないこととなつた。

(ニ)  そこで、申立人は山本一郎に対しても昭和三十二年十二月一日予備的に解雇する旨の意思表示をした。

以上のとおり認定することができる。

二、ところで、大阪地方労働委員会の発した前記救済命令は、山本一郎に対してなされた、昭和二十八年九月一日附解雇に対するもので、山本一郎を解雇当時の勤務先である在日米軍大阪日赤総合病院における同日現在の職務に復帰させ且解雇当日から原職復帰の日までの間、同人が原職にあれば受くべかりし賃金相当額を支払うべきことを命じたものであつて、在日米軍の右病院施設が現存し復帰すべき原職が存在することを前提としているものと解せられる。従つて、前認定のとおり右施設の廃止に伴う人員整理により、山本一郎の解雇当時同施設において同人と同じ職種にあつたものが一名も在籍しなくなつた現在においては、大阪府知事が右山本に賃金相当額の支払をしなくても、前記救済命令に違反するものでないと解せられる。よつて当裁判所の発した前記緊急命令も事情の変更により、もはやこれを維持する必要を見なくなつたものといわざるをえないので、これを取り消すのを相当と認め、労働組合法第二七条第七項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 浜田潔夫 伊藤顕信 小河八十次)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例